雨宮監督との「男の約束」によって実現した、「牙狼(GARO)」への俳優としての出演、そして主題歌の楽曲提供。
しかし、先方からの依頼は楽曲提供だけに止まらず、その楽曲を京本氏本人に歌ってもらいたいというものだった。
シンガーソングライターとしては願ってもない依頼のはず。
しかし京本氏はまたしても苦悩と戦わなくてはならない状況になってしまったようだ。
その苦悩とは一体???


(前回からのつづき)


京本政樹:で、そのお話をいただいたときに、正直、「うっ」って詰まった部分があったんですよね苦笑。

なんでかっていうと、そこは自分が今まで失敗してきたところなんですけどね、

わかりやすく言うと、自分は自分の中で「牙狼」のイメージにぴったり合うような曲を作っちゃったわけです。
そしてそれは必ずしも僕の中での「歌手=京本政樹」にぴったりあう曲ではない場合があるわけです。

例えばね、わかりやすく言うと、森進一さん用に書かれた曲を、もし西条秀樹さんが歌うとしたら、これはかなり難しいわけですよ笑。

で、僕はすでに例えば森進一さん用の曲を書いちゃってるワケですよ。
それを僕に歌ってくれっていうと、すごい難しかったりするんです笑。

作ることはやぶさかではないですけど、この曲を僕が歌うっていうのは本当に難しい。
僕の音楽人生は、いつもそこでシンドイ思いをするわけですよ笑。

オープニングテーマを景山ヒロノブくんたちが歌うっていうから、こっちも景山くんに歌ってもらった方がいいんじゃないですかっていうお話もしたんですが、
「やっぱり京本さんに歌っていただきたいんです!」っていうことになっちゃって、
結局歌うことになっちゃったんです笑。



それで、今回のアルバムの話にいったん戻るんですけど、
これまでずっと音楽プロデューサーとして大谷和夫さんがいつも一緒にいてくださってるんですけど、今回のアルバムはそこに「まるで悲しみが雨のように口づける」とか「かげろうの街II」のリメイク話がちょうどあるわけじゃないですか。
で、大谷さんとも相談した結果、当時のアレンジャーである山本はるきちさんに連絡をすることになるんです。やっぱりリメイクするにあたって、これは山本さんにお願いしたいと、そういう勘がはたらいたんで、山本さんに直接お電話しました。
そしたら、ほんとに快諾してくださいまして(微笑)

山本はるきちさんの部分ていうのは、どっちかというと打ち込みじゃないですか。
これまで大谷さんとやってきたのはバンドっぽいアレンジですよね。

今から十年近く前に、時代劇で初めてCGを使った「修羅之介斬魔剣 妖魔伝説」では、僕が目指したものはやっぱり「必殺」の音楽ではなくて、打ち込みだったんですよね。打ち込みでいく時代劇音楽、それが「まるで悲しみが雨のように口づける」だったんです。



で、今回の「牙狼」のイメージは、まさにCGをふんだんに使ったオトナの特撮なわけじゃないですか。



というわけで、「牙狼」の主題歌も山本さんにアレンジをお願いしたいっていう流れになってくるわけです。

さらに、景山くんたちは、きっとバンドサウンドなんじゃないかと想像してたんで、その対比もつけたかったんですよね。オープニングはきっとボーンと派手なやつでしょうから、エンディングテーマはミディアムな感じがいいかなって思ったりとかして。


そして、やっぱり主題歌だから、じゃ歌い方もきちっとしとかなきゃ!っていう感じになって、自分で自由に創作してるのと別次元の話になっちゃったから辛かったです。


録り終えたその曲をね、うちのマネージャーの菊池に聞かせたら、
「京本さんて、主題歌やるっていったら、主題歌の人になるんですね」って言ってました笑。
歌い方そのものまで、主題歌の人になっちゃうという笑。いつもの調子で、あんまりこねくったり、しゃくったりするべきじゃないっていう、自分の中でのプロデューサー的感覚みたいなものが働くんですよ。
でもそこがすごくシンドイんですよー。
アルバム用の曲は一発で歌い終わっちゃうのに、こっちはチマチマと「主題歌の人」っていうのに少しずつ近づけていく作業をしなくてはならないんです。

そこは、僕が時代劇やりながら現代劇やりながらコメディやってるのと一緒で、「コメディーはコメディーじゃなきゃいけないんだ!」っていうプロデューサー的感覚が自分の中にどうしてもあるんですよね。



さらに辛かったのが、ドラマの主題歌なわけだから、完成した楽曲をテレビサイズに合うように1分とか45秒とかに切り刻まなきゃいけないわけです。
それで、一度出来上がった「牙狼」のテーマの完成版を聞きながら、ストップウォッチで計って一生懸命計算しちゃってる自分がいるわけですよ笑。

で、聞いていただければおわかりだと思いますが、すごく長い歌なんだけど、リフレインが多いんですよ。僕の計算の中ではあそことあそこを切っちゃえばなんとかなるかな、なんてね。
まあその辺は「必殺」とかで、これまでいろんな作品に作家として音楽を提供してきたんで。

1分の中で勝負かけなきゃいけない、っていうことも念頭において歌を作らなきゃいけないんですよね。
で、そんなこともアルバム製作と同時に来ちゃったもんだから、辛いと言えば辛かったし。。。
でもまあみんなで楽しくドタバタしながらやっちゃったって感じでしたけどね。

あと、自分の性分として、ここはひけない!っていう、どうしてもこだわってる部分っていうのがあるんです。
やっぱり作った本人としては思い入れっていうものがあるので、第三者の方に、スポーンってカットされちゃうと、すごく大事なひとかけらが抜けちゃう場合があるでしょ。
渡してしまえばあとは野となれ山となれなんだけども、とりあえず提供するところまでは徹底的にこだわって製作しているんです。

逆に過去にちょっぴり苦い経験もありましてね。
「I can't say…」っていうテレビの主題歌でもあり、僕のデビュー曲でもあったわけなんですが、これ、実はサビの「I can't Say Good-Bye〜」っていうリフレインから始まる曲なんです。あそこがこだわりの部分だったんですが、フタを開けてみたらドラマのオンエアではそこはスポーンってカットされちゃってて笑。
あれ?いきなしAメロの「いつも下ろしてた髪〜を♪」から始まっちゃってるぞ〜!みたいな笑。



でもね。秒数っていうものと戦いながら作品を編集している方にとっては、ここ切ろうがあそこ切ろうが1分にすればいいんだっていう部分も出て来ちゃうと思うんですよね微笑。それは向こうもプロなんですから「餅は餅屋」っていうことで、仕方のないことです。
そういう経験もあったんで、
この1分サイズも全部僕が徹底監修して編集しました(微笑)

というわけで、テレビで楽曲を聴かれて、アルバムの「牙狼」を聞いてない方にとっては、驚くなかれ、完全版はめちゃくちゃ長いよっていう笑。
もう全然違うよっていう。ぜひ、アルバムでの「牙狼」のテーマの全貌を聞いていただきたいですね(微笑)



それは例えば小説家がね、壮大な小説を書いたのに、ドラマになると切り刻まれるのと一緒で、これはもう作家の嵯峨のところですね。
ドラマを見て感動したから小説読むのもよし、小説読んで感動したからドラマ見るのもよし。それはどっちもどっちで、どちらがいいとも言えないんですけどね。
ドラマにはドラマの良さがあり、小説には小説の良さがありますからね。
昔の角川小説じゃないけど、「見るのが先か、読むのが先か」っていう宣伝があったけどね。
まさにそれですよ。

そういう意味も含めて、主題歌、エンディングテーマを頼まれるっていうのは本当に僕にとって大変なことなんです。

たとえば吉田拓郎さんだったら、「拓郎さん節」をそのまま出せばいいと思うんです。
僕はやっぱりそうじゃないんですよね。「必殺」には「必殺」の音楽で、「牙狼」には「牙狼」の音楽っていうのをやっぱり考えてしまうから。

だから余計に僕が音楽やってることが浸透してないのかもしれませんけどね笑。
自分を押しつけることなく、プロデューサー的発想になっちゃってそっちに同化しちゃうっていうか。
そういう意味での自己主張っていうのがあんまりないんですよ。

さらに自分が出演する側っていうのもありますし。もちろん作品つぶしたくないっていう思いもすごくありますし。むしろ自分が歌っちゃうことなんてのは、自分が出演してるだけに、大丈夫かな?って思ったりとか。
そういう悩みの方が先にたっちゃう。やっぱりプロデューサー指向なんでしょうね。どうしてもね。

だから悩みは尽きないですよ。。。苦笑。




今語られる、知られざるエピソードの数々。このような紆余曲折を経て完成された、「牙狼」の主題歌。
実は、私、申し訳ございませんが、皆様より一足お先にトラックダウンにて聞かせていただきました!

それは、これまでの京本氏のイメージとはまたひと味もふた味もちがう、「牙狼」の世界観の京本政樹がそこにいる!という強い印象を受けました。とにかく圧倒的なスケール感を持った、力強いメッセージが込められた壮大な作品となっております!

1分サイズでは、残念ながらその全貌をうかがい知ることは到底できません!
是非ともアルバムでの完全版を聞いていただきたい!という超大作に仕上がっております!
皆様どうぞご期待ください!!

というわけで、これから気になるアルバムのことについてもお聞きしたいのはやまやまなんですが、次回は現在CMが絶賛オンエア中(のはず)の、プレイステーション2ソフト「必殺裏稼業」についてお聞きしてみたいと思います!久しぶりに裏稼業をはじめてしまった京本政樹。
一体、どのようなエピソードが聞けるのでしょうか?
震えて一週間お待ち下さい!!