ESP名物クラフトマン林宏樹のリペアよもやまレポート
今回の修理は、言わゆる事故品です。
タクシーで乱雑に扱われ、ボディ裏板に横割れが入ったとの事。
ハードケースに入っていたそうですが、一般的な木製で合皮が貼られたタイプは、板厚が2mm程度なので、強い圧迫には案外耐えられません。
内部にそれなりのクッションは有るものの、ゆで玉子の殻みたいなもので、多少の衝撃は緩衝してくれますが、潰れると中身は…
ケースを過信しての事故は少なく無いので、注意が必要です。
今回タクシーの運転手さんも悪気は無かったのでしょうが、特に楽器を扱い慣れない人に任せる場合は「楽器なので気を付けてくださいね」の一言で随分違うでしょう
前置きが長くなりましたが、自分でも新しいアプローチを試みたりして、やりごたえのある仕事でした。
響板の横割れという症状は、合板製のアコースティックギターで時々見られます。
表と裏の化粧板は薄く、強度が無いため、木目が直交するように貼られた中板の目にそって割れてしまうようです。
大半はボディに直接衝撃が与えられた事故によるものですが、今回はケース入りですし、比較的丈夫な合板ボディのグレッチがなぜ?
答えは、このギター独特の構造にありました。
殆どのフルアコースティックギターには、バイオリン属の魂柱のようにボディトップとバックを繋ぐ構造をしてません。
しかしグレッチの一部機種は、おそらく弦張力によるボディ変形を防ぐために、ブリッジの下(のボディ内側)に柱の様なものが立っています。
どうやらボディ表は、一番突出しているブリッジが押され、ボディ裏は柱のすぐ後ろに力が掛かったようです。ケースにもそういった位置に損傷がありました。
柱が無ければ、ボディ全体で柔軟に受け止めたかもしれませんが、今回は頑丈な構造が仇になったようです。
合板の割れは、ラミネートの剥離を伴う事が多く、復旧がなかなか難しいです。
しかもラウンドホールのアコースティックでは無いので、作業そのものが困難でもあります。
今回は雄型雌型を作り、ボディに小さな穴を空け、ワイヤーを通してウインチで締め上げる方針です。
変わりばえのしない画像ばかりですが、詳しくはキャプションにて