2003年12月のリリースより、ESP SNAPPER(スナッパー)シリーズは2023年で20周年を迎えることができました。おかげさまで皆様にご好評いただき、SNAPPERの満20周年Special Yearとなりました。
これから2024年にかけて、様々な企画やキャンペーンを計画しております!
こちらでは開発が始まった当時を振り返りながら製品開発時の秘話やこの仕様に至った経緯など、ちょっと別の角度からSNAPPERを深掘りしていきたいと思います。
随時更新していきますので乞うご期待ください!
[ 開発チームメンバーによるSNAPPER回顧録 ]
第一章 – 開発秘話&ヒストリー
-9- 「SNAPPER-S」と「Custom LabピックアップS-2」
こうして、3シングルバージョン「SNAPPER-S」の開発が始まりました。
今回はSNAPPERの基本構造を大きく変える必要はありませんでしたので、まずはピックアップの見直しから始めました。SNAPPER-CTMに採用された低ノイズなシングルピックアップであるESP Custom Lab CL-P-S-1が大変好評だったため、この設計を生かした上でまた違った方向性のピックアップを新規開発する事にしました。このプロジェクトで新たに掲げたコンセプトは「たくましいハイミッドの粘りと繊細さを兼ね備えた、弦振動が生き生きと伝わってくるレスポンスの良いピックアップ」という物でした。
実はSNAPPER-Sの開発にあたり、アルダーボディ以外のバリエーションとして大変ご要望の多かったスワンプアッシュボディをラインアップに追加しようという事になっていました。
✔アルダーボディにローズウッド指板のモデル
✔スワンプアッシュボディにハードメイプル指板のモデル
新しいピックアップに求める条件は、王道とも言えるこれらの材料の組み合わせにおいて、どちらかのサウンドファクターに偏らないように広いレンジを再現する事。どのようなギターに載せても強制的にピックアップの音がするような個性の強い物を作るのではなく、材によるサウンドの特性やピッキングのニュアンスがリアルに表現できるかを重要視しながら試作を続けました。
いくつか試作を作っていくと、目指すトーンには比較的順調に近づいて行けたのですが、サウンドに包み込まれるような立体感(奥行き)と、厚みを生み出すという理想の音像の再現は困難を極めました。大げさではなく、実に20個弱の試作と修正を繰り返したかと思います。最終的に、コイルを少しだけ緩くランダムに巻くことで、オープンかつ心地良いワイルド感を持つピックアップを完成させる事に成功しました。もちろんノイズ処理はS-1と同じく銅箔包みを採用し、ワイルドさとともに低ノイズを実現しています。
こうして新たなシングルピックアップ” ESP Custom Lab CL-P-S-2″ピックアップが誕生したのです。
弱いタッチでは深みがありファットかつスウィートでマイルドなトーン。そしてスナップを効かせて振り抜くと鉄っぽさのある乾いたトーンに変化するという、非常に高いタッチセンシビティが実現できたと思います。ただ、このS-2ピックアップは奥行きを出すためにハウリング耐性をやや犠牲にしているため、ブースターの2個掛けや強力なディストーションなど、ハイゲインでのセッティング時には少々注意が必要です。
ボディの木部での大きな変更点としては、ピックアップキャビティの変更があげられます。よりスタンダードな鳴りになるように、ミドルとブリッジを合わせたセンターランチボックス・スタイルのキャビティから、シンプルな3シングルキャビディへと変更しました。
これにより、アコースティック感を最大限に出した広がりのある響きからミドルのアタック感の増したパワフルな鳴りになりました。
3シングルのギターらしいルックスを狙い、また使用感と機能性の向上の為、コントロールなどにも細かな仕様変更を行いました。ミニスイッチを外して3ノブ仕様へ変更し、トラディショナルな見た目の安心感を獲得すると同時に新たな機能を採用しました。3つのノブはそれぞれ、マスターボリューム、マスタートーン、そして新機能であるフレキシブルブレンダーです。
フレキシブルブレンダーは、ブリッジ・ピックアップとネック・ピックアップをブレンド具合を調整することができます。ブリッジ・ピックアップを選択時にネック・ピックアップの音色を、またその逆でネック・ピックアップを選択時にはブリッジ・ピックアップの音色を好みに合わせてブレンドすることができます。更にはハーフトーン時にはすべてのピックアップの出力も可能となるため、3シングルのあらゆるバリエーションを好みの混ぜ具合で出力できるようになっています。地味ではあるかもしれませんが、さりげないサウンド調整もできる為、レコーディング時に重宝されるコントロールでした。
また、アウトプット・ジャックはボディサイドにキャッツアイ型プレートでマウントしていましたが、舟型プレートを用いたボディトップ・マウントに変更しました。これは単純に見た目にトラディショナル感が強いというルックス上の変更です。
ハードウエアの大きな変更として、FLICKER-IIIにブラス製のサステインブロックを搭載する事にしました。SNAPPER-Sのリリース時には従来のジュラルミンブロックを搭載していたのですが、これを後にブラスブロックに変更しました。実はFLICER-IIIの開発時にブラスブロックの試作、サウンドの検証も行っており、ずっしり重みのあるブラスが生み出す優れたサステインとコシのあるサウンドは、シングルコイルとも相性が良い事は分かっていました。重いブリッジにピッキングのパワーを強く乗せると、振動に遠心力が生まれてボディ鳴りがさらに太く大きくなります。そこから生まれる一体感のあるパワフルで野太い鳴りはハードロック的なアプローチにも最適と言えます。
とても素晴らしい魅力のあるサウンド特性を持ったブロックで、従来のSNAPPERへの搭載を望まれるプレイヤーも多いことが予想されました。そこでSNAPPER-Sへの搭載用だけでなく、トーンシフトパーツとして単体販売も開始する事を決定しました。
SNAPPER-Sの最終ラインアップとカラーバリエーションは以下の通りになりました。
●SNAPPER-S/AL
●SNAPPER-S/AS
このSNAPPER-Sは2004年~2007年までの4年間と短い製造期間となりました。当時、トラディショナルなモデルはより再現度の高いものが好まれる時代背景があり、よりヴィンテージ志向のお客様はNavigator N-SEなどを求めるケースが多かったように思います。
その結果、一部の現場のミュージシャンから高い評価を頂きながら惜しくも生産終了という決断をしました。非常に短期間の展開でしたが、このSNAPPER-Sを高く評価していまだに話題にしてくださるミュージシャンが多くいらっしゃることを、開発チームとしては大変嬉しく思っています。
※本記事では、2003年発売のSNAPPER ファースト モデルの構造を解説しています。
(SNAPPER開発チーム メンバーK)
– つづく –
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◆ ESP SNAPPER-7 開発秘話