「創作の翼」特別企画
トップクリエイター対談
ESP湯澤×イラストレーターRella

━━ 今回の「創作の翼」という16thのギターを持つミクのイラストが公開されました。このギターのデザインもRellaさんが担当されたと伺っています。 元の16周年のイラストからギターデザインに落とし込む際に特に大切にした点、それぞれのデザインに込めた意図、注目ポイント、自慢ポイントを教えてください。


Rella:
ギターとしてしっかり音が出せるように、ギターの理論に基づいてデザインすることを意識しました。具体的には、ギターの写真を見ながら「ここの曲線は絶対何か意味があるんだろう」という部分を感じ取りながらデザインしていましたね。ギターとしての実用性を考えていく上で、最初のデザインから大きく変えた所もありました。


━━ 湯澤さんが今回のギターを作るうえで大切にした点を教えてください。


湯澤:
やはり、Rellaさんが描いて下さった創作の羽根の形を「絶対に少しも変えない」ことには最大の注意を払いました。ここはとにかく重要なポイントです。

実際のギターと創作の羽根のイラストを見比べていただければ分かるかと思いますが、羽根自体の形は、イラストから全く変えていないんですよ。

そうなると自ずと、創作の羽根を構成する細かいパーツも一つ一つ、一個も漏らさず丁寧に作っていくことになります。まるで、大量のフィギュアを作っているかのような感覚でしたね。

Rella:
創作の羽根を構成する細かいツールも一つ一つ丁寧に作っていただいたことによって、これら一つ一つが形作る創作の形までもが尊重されている、そんなリスペクトを感じました。
ツール一個にしても、それぞれの形にしっかりとした意味がありますから。


━━ この精緻なデザインが、今目の前に実物としてあるわけですが、こういった特注系のギターはどういった工程で作るものか、教えていただけないでしょうか。


湯澤:
簡単な説明にはなってしまいますが、とにかく一番重要なのは、まずギターのラインが決まること。ラインを決めたら設計図を作りながら、「これを再現するにはどのくらいの厚みのボディーが必要か」とか、「どう設計していけばギターとして成り立つか」ということを考えていきます。

例えばギターには配線が必要なのですが、「ジャックはどこにしようか」ということを考える際、コントロールを入れるためのザグリ※のことも考えなければならない。
ジャックはバック面に置くことも、サイド面に置くこともできますが、「今回は配線がこうなるからザグリはこれくらいの大きさにして、するとジャックはこの位置に置くべきだ」といったことが、段々と決まってきます。設計が決まったら、次にボディとネックの外周を削ります。

※ピックアップや配線・回路を組み込んだ際に表面から突出部がないように加工を施すこと

そしてピックアップ等、パーツが乗るザグリをこの段階で作って、その後でようやく彫刻を施していきます。


彫刻が終わったら、通常通りギターの塗装を始めるのですが、今回みたいな白一色のカラーリングって「簡単そう」って思うじゃないですか。実はものすごく難しい。

例えば、黒色の場合、塗装の最中に微細な埃が付いたとしても目立たない。
しかし白色の場合、微細な埃でも非常に目立つんです。

今回はパーツ数もかなり多いですし、ボディ含め全ての部位に埃を付けないというのは、通常のギターよりも凄まじい注意力を要する作業でした。

塗装が終われば、後はパーツを一つ一つ組み込んで完成です。

Rella:
パーツ数って一体どれくらいになるんですか?

湯澤:
数えていないですが、大体70パーツ程です。これは非常に多い数ですね。

Rella:
凄く多い(笑)

最近はフィギュア業界でも、パーツ数がどんどん増えていたりするんですが、一つの原木から彫る処理をすると、パーツ類が悪い意味で溶け合ってしまうんですよね。そのため、パーツを分けたほうが境界線がハッキリして、全体の印象としてメリハリがつくんです。

湯澤:
まさにそういう意図ですね。ただ、ギターを弾く際に折れる危険性がある部分に関しては、一体成型にしました。また、一部材質も木からアルミに変更して強度を付けています。
あくまでギターは「弾くためのもの」ですから。


━━ Rellaさんも会場にお越しいただいて初めて見ると思います。ご覧になっていかがでしょうか。


Rella:
パーツの奥行き感がとにかく良いですね。
光が当たると影が出来て、とても綺麗に見えます。
ヘッド側の横から見た時が一番グッと来ます。

湯澤:
パーツの説明で追加なのですが、ヘッドの部分は実は、フォームの羽根とサウンドの羽根の両方の要素を混ぜて彫刻を施しています。
また、フォームの羽根のパレットの部分が実は肘あてになっています。
グッと押しても壊れませんよ。

Rella:
すごい、合理的(笑)
私のデザイン段階ではそういう意図は全く無かったので、奇跡ですね。


━━ 今回湯澤さんがクラフトマンとしての姿勢で大事にしたことはありますか?


湯澤:
「デザインにおいて自分の線を入れないこと」ですね。
今回の場合、自分の個性を出すべきではない。今回の仕事はあくまで「再現」なんですよ。だから自分の線を入れたらダメになる。

線はあくまでRellaさんのものでなくてはならない。
普段は自分でデザインさせてもらうことも沢山あるのですが、今回のお仕事は自分でデザインするものとは考え方が根本的に違います。

Rella:
またフィギュアの話になってしまいますが、フィギュア作りの世界でも、原型師さんがどこまで自分の個性を消せるかというのが見せどころという側面もあります。原型師さんもクリエイターである以上、皆自分の自我というか好みが存在している。しかし再現度を求められる仕事の場合、自分をどこまで消せるかが大事ですよね。

湯澤:
自分の場合、それが全然苦痛じゃないんですよ。

Rella:
「どこまで再現できるかの戦い」って燃えるんですよね。


━━ 想像すらできないのですが、このギターを作るまでにいったいどれくらいの時間がかかったのでしょうか?


湯澤:
大雑把に言えば構想6か月、製作1年って感じでしょうか。


━━ 実際に展示を観に来られた方に、どういったところを特に観てもらいたいですか?


湯澤:
展示だから難しいのですが、本当に伝えたいのは、「これ実際に弾けるんだぞ」という所ですね。

Rella:
実際に誰かが弾いている映像を観てみたいです(笑)

湯澤:
観たい(笑)
あくまでそこが一番大事なんです。
演奏できるんですよ、しっかり作ってますよ、壊れませんよ、ということを伝えたい。
もちろん強くぶつけたら壊れてしまいますが(笑)
実用性重視なので、色々な所に壊さずに持っていける様に、このギターを入れるハードケースも専用設計しています。

ただ、もし壊れてしまっても、個別に修理に対応させていただきますのでご安心ください。
今回のギターはパーツを非常に細かく分けて製作しているので、あるパーツが壊れてしまっても、そのパーツだけ新しく作り直すということが可能なんですよ。


━━ 今回のギターは今後、どういった展開を予定されているのでしょうか?


下川:
まず、マジカルミライ2024での展示を予定しています。
このギターは一般販売する予定なのですが、販売方法や価格等の情報は追って公開させていただきますので、続報をお待ちいただければと思います。
立体的な造形美が凝らされた「創作の翼 -Wings Of Creation-」ギターの実物を、ぜひその目でご覧ください。
皆様にお会いできることを、スタッフ一同心より楽しみにしております。


インタビュー:rukaku
カメラマン:上坂美由希

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